従来の一般的な心臓手術では、前胸部を縦に約25cmほど皮膚切開します。さらに胸骨（きょうこつ）という平たいカマボコ板の様な骨を半分に切って広げると、心臓から大動脈まで一目で見渡せる良好な視野が得られ、あらゆる種類の心臓手術が可能となります。しかしながら、このアプローチでは目立つ場所に大きな傷ができ、骨を大きく切るため骨髄からの出血や骨の癒合不全、さらには骨の感染（胸骨骨髄炎）という命に関わる危険な合併症が生じる場合が稀にあります。

弁膜症手術予定の限られた（ある医学的基準を満たす）患者さんに対し、5から10cmほどの小さな傷で、胸骨を切らずに手術を行っています。この手術方法はMinimally invasive cardiac surgery, MICS（ミックス）と呼ばれています。例えば、僧帽弁手術の場合は右乳房の少し下を、数センチ切り肋骨の間の隙間から手術をします。女性の僧帽弁手術の場合、創が乳房に隠れ、傷が目立たなくなります。

MICS手術は、女性の方で手術創の見栄えを気にする方には、大きなメリットがあります。とくに若い女性の方には非常に喜ばれています。さらに、高齢で骨が弱くなっている方では、胸骨を切らないので骨の治りが悪いなどの問題が起きません。傷が小さい事自体が術後の回復を早める治療的メリットもありますので、MICSは男性も含め全ての成人が対象となります。デメリットは、術野が制限され手術に必要とされる技術的ハードルが高くなります。体外循環技術にも工夫が必要となります。術野が深くなり指もまったく届きませんので、専用の細長い手術器具や内視鏡カメラも利用して手術を行います。

当院では、MICSの適応（医学的基準）を満たせば、低侵襲かつ安全に有効に行える治療として行っています。